act1.アナザーver.〜水辺へ迎えに行ったのが三蔵だったら〜
最遊記 act1. if
「こんなところで何をしている?」
「…………三蔵」
泉の淵に腰を下ろし素足を水に浸しながら寝転がっているの視界に、不機嫌を隠そうともしない三蔵が逆向きに入る。
「水だなぁ、と思って」
「バカか?見りゃ判るだろうが」
「そだね」
ほや〜としたの返事を一言で切り捨てる三蔵と、それに何の反論もなく同意する。
えいっ、と腹筋で起きあがると足をばたつかせて水面を波立たせる。
「…もう一度聞いてやる。何をしている?」
先程の問いより幾分か強い口調で三蔵が詰問する。
「水に触ってるとさ…落ち着くのよね」
苦笑いを浮かべながらが三蔵を見上げて答えた。
「俺たちの傍では落ち着かんか?」
「ん〜ちょっと、ね。初対面の男の人、しかも3人といきなり同行することになっちゃったし、
唯一知ってるつもりだった昔馴染みはすっかり美丈夫になっちゃってるし。
……でもそれも直に慣れるよ。八戒の台詞じゃないけどさ」
見上げてるの首が痛いから横に来て座ってよ。そう笑って自分の右隣を指し示す。
それに素直に従う三蔵を他の三人が見たら目を剥いて驚くだろう。
「野営続きでいつ終わるかも知れん旅、襲撃してくる妖怪共を返り討ちにする日常、
…他には何がある?手前ぇが慣れなきゃならねぇモンは」
「三蔵…?」
「十年前の俺と同じ目なんかしてんじゃねぇ」
世界の全てを失くしたような目を。
「なんだ…やっぱばれてたのね…そだね、三蔵は江流だもんね。昔っから聡くてさ」
は小さく笑うと、水から足を引き上げて膝を抱え込みながら暫く黙り込んだ。
三蔵はせかすでもなくが話し出すのを待っている。
「10日くらい前にさ、隣村で妖怪が暴れたって連絡があってね。
あたしは妖怪退治にその村へ行った。母さんは止めたんだけどね。
空振りだった…あたしが隣村に行ってる間に、妖怪はうちの村を、うちの寺を、襲って…
か…ぁさ…ん……も……み…な…も………ふ、ぅう…っ…」
「……そうか…」
嗚咽を漏らすの肩を三蔵は抱き寄せた。喪失感と悔恨。自分にも覚えのある痛み。
「慣れなくていい…癒えるまでここに居ろ」
の手を取り、自らの胸元へと引き寄せる。
同じ傷を持つ者同志の傷の舐め合いなんざゴメンだ。だが…
「癒えたら…笑え。庵主さまも尼僧たちも、手前ぇの泣き顔なんざ望んじゃいねぇ」
癒えぬ痛みを抱えたまま、微笑い続ける手前ぇを見るのはもっとゴメンだ。
「だっ…て…さん…ぞ…重…いの…ヤ…でし…ょ…?」
「手前ぇ一人くらい重かねぇよ」
泣きじゃくる合間に告げるに、三蔵は口角を上げて低く語りかけた。
「…っ…でも…」
「一生に一度くらい甘えてみせろ。手前ぇが年下だと?俺は知らなかったぞ」
に引っ張り廻された子供の頃を思い出しながら言う。
あの頃のの態度は、まるで弟に対する姉のものだったから。
「…うん…」
ごそごそ、と身じろぎをして三蔵の胸に頭を預ける。
水音と小さな嗚咽が静かな空間を流れる。
暫くして。
バツが悪そうに顔を上げたが小さな声で三蔵に告げる。
「あの…さ、昼間は大丈夫。みんな楽しい人達だし。一緒にいると落ちてる暇なさそうだし。
…夜にときどき、傍にいて貰っても…いい?」
「…………ああ」
紫暗の瞳に浮かぶ光は穏やかに、腕の中の女を見つめていた。
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