幾千もの光りは それぞれの願いを 導くように輝く
最遊記 COSMIC RESCUE
大きな河のそばにある街に、3日間滞在すると宣言したのは三蔵。
不思議がる悟空と悟浄に、彼に代わってこの街の雑貨屋にある保存食が不足していること、
次の入荷まであと3日ほどかかることを説明した。
実は嘘だ。
この街についてすぐ、三蔵に休養を提案した。
自分の為ではなく、ましてや他の誰の為でもない。
ただ一人、響のために。
ほんのすこし、彼女の動きが鋭さを欠いてきた。
ほんのすこし、彼女がジープの上でうたた寝している頻度が増えた。
体調の悪化を訴えるほどでもない、本人にすら自覚のない変調を杞憂する自分が可笑しい。
『三蔵に知れたら、絶対に誤解されますね』
本当にこういう機会を狙っての提案ではなかったのに。
1日目にたっぷり休養を取った響はすぐに体調を取り戻し、2日目には暇を持て余すようになった。
「ねぇ八戒。散歩行こう?」
夕食後、それぞれの部屋に戻るときに響に誘われた。
最初は街の中を歩いていたが、酒場の類以外の店の灯が落ち始めると街を外れて河までやってきた。
「冷た~い。気持ちい~」
止める暇もなく、ミュールを脱いだ響が水の流れに足を浸す。
「滑ると危ないですから、くるぶしより深いところに行っちゃダメですよ」
ぱしゃぱしゃと、小さな水音を立てて遊ぶ響に声をかけた。
「はーい」
返事だけはよい子のお返事で、響は無造作に歩を進める。
滅多に着ないワンピースに季節外れのミュールを履いて出てきた辺り、
初めから水遊びをするつもりだったのは明白で、
彼女の女性らしい装いに浮かれていた自分を含めて笑えてくる。
「身体を冷やさないうちに上がってくださいね」
「はーい」
本日二度目のよい子のお返事。
振り回されていると思うのは気のせいではないだろう。だが…
初めて会った夜、今日と同じ満天の星の下で泣いていた彼女がこうして笑っているのが嬉しい。
その笑みが自分に向けられているのが更に嬉しい。
『我ながら、単純ですね』
「はっかぁーいっ」
はしゃぐ響がくるりと振り返り、こちらに手を振ってきた。
青銀の髪が、白い四肢が、夜の帳に紛れることなく輝いている。
薄いベージュのワンピースが、河を渡る風に煽られてふわりと舞う。
夜空とそれを映す水面が境を無くし、全てが相まって幻想的な空間を編み出す。
それはまるで…
「…響っ」
不意に胸をよぎる不安。思わず響に駆け寄り、彼女を自分の腕の中へ収める。
「どうしたの?八戒」
不思議そうな響の声に、はっと我に返る。
「貴女が…夜空を舞う天女のように見えました…僕を残して天に還ってしまう…風が攫ってしまう…
そんな気がして……可笑しいですよね」
響が強く優しい瞳で見上げてきた。
「あたしは何処にも行かないし攫われもしない。それに…」
見上げたまま響がにっこり、と笑みを浮かべる。
「もしあたしが間違って何処かに行きそうになっても、なんとかしてくれるでしょ?」
寄せられる信頼がこの上なく嬉しい。
「…………はい」
ただ一言、そう答えた。肯定だけでなく誓約の意味も込めて。
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