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最遊記 '03八戒生誕日記念夢


「む〜」
夜も更けた宿屋の一室で、はひとりで唸っていた。
その手にはシンプルだが綺麗に包装された小箱。

9月21日が八戒の誕生日だと教えてくれたのは悟浄だった。
今までの旅のいきさつを聞くうちに…清一色の件から、八戒の双子の姉の死と、
彼女の存在の大きさを聞かされたのは暫く前。
八戒にとって誕生日は喪失を思い知らされるきっかけとなりうるのではないだろうか。
“おめでとう”と言われるのは辛くないだろうか?
そう思うと、今日の為に用意していたプレゼントを未だに渡せずにいる。

今日は全員が一人部屋。八戒はすぐ隣の部屋にいる。
「う〜」
なんて言って渡せばいいんだろう?
「…あたしらしくない」
ぺふり、とベッドに倒れ込む。小箱を潰さないように手だけを避けて。
例えば彼が受けとってくれなくても…悲しいけど構わない。
でも、彼の痛いほどに思い詰めた表情を見るのが辛い。

うだうだと迷い続けて更に時間が経った頃…
、いいですか?」
軽いノックの音と共に、耳に心地よい声が聞こえてきた。
「えっ…うん、いいよ入って」
慌てて小箱を枕の陰に隠して、は八戒を招き入れた。
「…どうしたの?」
動揺を隠して問うに、八戒は寂しい笑みを浮かべた。
「それは僕が聞きたいですよ。僕、朝からずっと貴女に避けられてる気がするんですが?
 僕から話しかけても上の空ですし」
「そっ…避けてなんかないよ?今だってこうして部屋に入って貰ってるし…」
自覚があっただけに、の言葉が上滑る。
「でも、今もなんだか落ち着かないみたいですよね。…僕、になにかしたんでしょうか?
 悟浄が何か知っている感じだったんですけどはぐらかされてしまって。
 …その……。もし貴女が彼に心変わり、したのなら…」
「それは絶対無いっ!」
言い辛そうな八戒の言葉に、それまでの目線を合わさない態度から一変、掴みかからんばかりの勢いで否定する
「…知ってます♪」
八戒の口調が普段の明るいものにコロッと変わる。
その余りのギャップに脱力したが八戒の胸へとへたり込んだ。
「…八戒ぃ〜……」
「だって、こんな手でも使わないと、貴女話してくれそうにないですから」
にっこり笑って自分を抱き支える八戒に、の腹は決まった。
するりと八戒の腕から抜け出すと、枕元に隠した小箱を手に取り八戒に差し出す。
「八戒。お誕生日ありがとう」
「……………………は?」
の少し不思議な言葉に、かなりの間をおいて八戒が問い返す。
「普通、誕生日は“おめでとう”じゃないんでしょうか?」
「いーのっ!あたしが、八戒が生まれてきてくれて嬉しいんだから“ありがとう”なの!」
半ば強引なの論法に暫く唖然としていた八戒だが、次第に笑いが込み上げてきた。
「…っ…貴女って人は…………」
くすくすと笑い続ける八戒は、を改めて抱きしめた。
「受けとって…くれる?」
「勿論。…でも……」
そのままをベッドの縁に座らせ、自分もその隣に腰を下ろす。
「折角、心変わりが絶対無いと断言してくださったんですから、この際もう少し仲良くなりませんか?」
「ちょっと…はっか……」
が八戒の腕の中から抜け出そうと身をよじるが、先程とは違い腕は緩まない。
「僕も、心変わりはありませんよ」
耳元で囁く声に抗うことができなくて…………




その夜、二人はもう少し仲良くなった。


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