Log Horizon

ログ・ホライズン act1. 01


鎧戸を閉めた薄暗い室内。主不在のギルドハウス。
所有者が大正レトロのイメージでデザインしたのだと笑って言った室内は、古臭くも懐かしさを感じさせる。
アイザックはトレードマークと言える装備を外し、畳の上で仰向けに寝転がっていた。

ステータス画面を開いて、フレンドリストを表示する。
《大災害》から一ヶ月。何度も繰り返した操作で目的の名前を探し出した。
グレイアウトしたその名前を指で弾いても、呼び出しの鈴の音が鳴る事は無い。

当たり前だ。
アイツは居ない。アキバに。ヤマトに。この世界に。

アイツは《大災害》に巻き込まれなかった。それはアイツにとって良い事の筈、だ。

他の、ログインしていなかった連中の名前は消した。
先日発足した〈円卓会議〉とやらの一角を担うことになり、その関係者達を登録したところ、名前を探すのが億劫になる程度に増えたからだ。
元の世界に戻ったら、また登録しなおせばいい。

今のフレンドリストに暗灰色の名前はひとつだけ。

『新レイドのネタ掴んだら絶対うちに持ってこいよ!』
『そっちこそ、第一パーティのアタッカーの座は空けといてよね!』
拡張パック〈ノウアスフィアの開墾〉アップデートの数時間前に交わしたそんな会話が脳裏によみがえる。

長押しで編集メニューを表示する。
『削除』ボタンを押すと『本当に削除しても宜しいですか?』のポップアップメッセージ。

10秒ほど睨み付けて『いいえ』を選んだ。
改めて『並び替え』ボタンを押し、リストの最下段へ移動させてからフレンドリストを閉じる。
ごろんと寝返りを打ち、側臥で目を閉じて独り言ちた。

「…………なんでいねぇんだよ、…」


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