Log Horizon

ログ・ホライズン act1. 02


ギルド会館16階。〈円卓会議〉の会議室。
結成から三ヶ月。手探りで始めた自治組織運営がどうにか形を整えることに成功しかけた頃。
例によって"アキバのひまわり"が言い出したイベント…天秤祭の打ち合わせが今日のメイン議題だった。

「天秤祭のタイムテーブルについては、次回までに〈三日月同盟〉と生産系ギルドで叩き台を提出いただき、その後精査しましょう。
 〈D.D.D〉と〈黒剣騎士団〉の間で警らの調整も必要でしょうし」
「…んあ?呼んだか?」

椅子にどっしりと腰掛け、両腕を組んで目を閉じていたアイザックが迫力はあるが少々間の抜けた声を放った。
10の席から呆れた、諦めた、あるいは生温い視線が向けられる。

「会議中に寝るのはどうかと思いますが。アイザック?」
「悪ぃ悪ぃ、最近ちぃと寝が浅くてな。祭りの警護の話だったか?」

悪びれる様子もないアイザックに甚振り甲斐を見いだせなかったのか、クラスティは早々に話を切り替える。

「…まあいいでしょう。打ち合わせは後日です。他に提議が無ければ本日の定例会議は終了としますが…」

議長であるクラスティが終了を口に上らせると、イベント前の慌しさもあり大半の円卓メンバーが腰を浮かしかけるが、それを制してシロエが挙手をした。

「お忙しいところすみませんが、もう少しお時間をいただけますでしょうか?」

全員の視線がシロエに集まる。

「皆さんにお知らせしたい情報…というか、会っていただきたい人物がいます。
 今、〈記録の地平線〉うちの執務室で待機してもらっているんですが…議長、その人物の会議室への入室を許可を求めます」

ギルド会館の所有者はシロエ自身。許可を求める必要は無い。
わざわざ『議長』に対して許可を求めるのは、会議の形式を重視するため。

「なんだ"腹ぐろ"、ずいぶん勿体ぶってんな…誰だよ?」
「それが、直接顔を合わせるまでは名前を言うなって言われてまして。
 たぶんここにいる全員がご存知の人物ですよ。勿論アイザックさんも」

まだるいことが嫌いなアイザックが追求するが、シロエにあっさりかわされる。
チッと舌打ちしてそれでも、浮かした腰を椅子に据え直すアイザック。
シロエが持ち込む議題が何であれ無価値ではないと思う程度には彼を買っている。

「ふむ。シロエ君が我々にとって有害な人物を連れてくるとは思いませんし…いいでしょう。許可しましょう」

面白そうですし、という独白は無視してシロエはメニュー操作の後、右手を耳に宛がった。

「シロエです。許可を貰いました。上がってきてもらえますか?」

それから数分後。控えめなノックの音の後、開かれた扉の向こう。
〈記録の地平線〉のにゃん太と共に佇む一人の女性に全員の目が釘付けとなった。

狼牙族特有の、だが艶のある墨色の垂髪。逆に種族には稀な海を思わせる青緑の瞳。
白い水干と緋袴をその身に纏い、頭には夜叉面を斜めに被った女性は、座を見渡し深みのある声で告げた。

「アバターではそれぞれ面識はあるけど、リアルでは一部除いて初めまして、かな?
 "そだて屋"、ウェンの大地よりアキバに帰参いたしました」


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